08.

 彼はあの根無し草を心の底から慕っているらしい。
 正妻の腹から生まれた第一子である彼は、同日同時刻に生まれた妾腹の第二子と会いたがっていた。身分の差もあり彼が兄という扱いになっていたが、彼自身は兄でも弟でも呼称はどちらでも構わないようだった。
 ただ、きちんと顔を合わせた上で話をしたいらしい。
「あれは、今の生き方が性に合っているのかもしれない」
 裕福な育ちの彼は根無し草の奔放な生活ぶりを聞いても、それだけしか言わなかった。家に連れ帰ろうとか、金の融資をするとか、そんな押し付けがましい考えを口にしない。表立って動かず、気付かれないよう陰から手を出すようなアクションばかりを続けている。
「どうして弟に会いたいと思ったのですか」
 私は尋ねた。
「約束を、守りたいのです」
 彼がはにかむように笑うのは、あの根無し草の話をするときだけだ。
 恋を知ったばかりの少年じみた不器用さと、ずるい大人に騙されないよう取り繕った大人の面が交錯する。紳士とは、優雅な響きからは想像もつかないほど面倒な人種のようだ。
「そういえば、あれは此処に来ていますか」
「ここ一ヶ月、音沙汰なしです」
 私はあの根無し草が何を生業としているのか知らない。まっとうな仕事をしている風には見えなかったが、では何をしているのかと問われると言葉に詰まるだろう。
 彼は来ることしかしない。私達は追うことすらできない。
 根無し草とはそういうものなのだろう。

 彼は目を伏せて何かを考えていた。
 何を思考していたのか、私は詮索しなかった。