07.

情報量を減らして持ち運びに特化させた簡易型プログラム。
あの兄弟に貸したそれは、自発的には喋らない。
ある特定の単語をマイク部に届く音量で発声すれば、本体のスピーカー部から返答が返ってくる。たったこれだけの簡単なシステムだ。
おはよう、と言えば、おはようと返し。
眠い、と言えば、シャワーを浴びてゆっくり眠りなさい、といった風に。
私とてあの兄弟と長い付き合いという訳ではないので、大半の言葉遣いは想像でまかなった。彼ならこう言うだろう、言うのではないか、そのIFをテキストに纏めるのがかなりの手間だった。だがここが一番の肝でもあった。
あのプログラムを作ろうと決心してから、私は努めて彼らを観察した。柄にもなく相談に乗ったり、こちらから些細な質問を投げたり。
一年近く続けてきた質問群。私から尋ねたもののほとんどは、人格プログラムを作成する上で必須であった重要項目だった。
彼らに貸した簡易型は無駄を排除した軽量仕様だ。しかし人格プログラムには無駄こそが必須。混ざり合い弾き合う、複雑で曖昧な機械には不要とされるココロが。

人間に匹敵する精巧なものなど一人で作れはしない。だから私はあの紳士に助力を求めた。
彼の理想と私の現実、水と油をバグが出ないよう慎重に混交すれば面白いものが出来るだろう。そう考えた。
私に迷いはない。私は開発者なのだ。そして彼も、私の欲する答えを幾つもくれた。
こういう事を話したい、ああ言ってほしい。
紳士の落ち着きは露と消え、彼は兄弟と交わしてみたい会話内容を私に語った。
純粋で混じり気のない微笑は、きっと愛からくる表情なのだろう。
私は彼の期待に応えたいと思った。

……あの根無し草が私の家に来なくなってから、一ヶ月が経過しようとしている。