話は数年前にまで遡る。
二人は私の家に来る。根無し草は金の為に、紳士は根無し草の尻拭いの為に。
そんな状態だったから、自然と二人の橋渡しを押し付けられるようになった。
ある日、いつものようにノックを一回してからピッキングで屋内に侵入してきた彼が、珍しく兄弟の話をした。あいつはどうして此処に来るのか。私とどういった関係にあるのか。そういった事を尋ねてきた。
他人の事情を話すのも気が引けたので、私は話をはぐらかした。そんな私を見て彼はどんな考えに達したのだろう。
「あいつは、俺の何に期待してんのかな」
彼がそう呟いたのが印象的だった。
またこんな事もあった。
ある日、シルクハットを頭に乗せた彼が封筒を差し出したとき。あれはどうしているか、病気はしていないか危ないことに手を出していないか。そんな事を私に尋ねてきた。そんなことは本人に直接訊けばいいだろうとつっぱねれば、住所も電話番号も分からなくて会えないのだ、と苦笑された。そういえばあの根無し草は住所不定な上電話も持たないのだった。
「俺は、本当に嫌われているらしいな」
静かな声が耳朶に残って、しばらく頭から離れなかった。
私があのプログラムを作ったのは、ただ面倒臭かったからだ。
あの二人の間を取り持つなんて役は私の手に余る。だから代わりを作ってやろうと思ったのだ。
仮にも博士と呼ばれるものの末席を私は担っている。出来ないことではなかった。
あの態度から想像できる限りの人格を作成し、二人に合わせた返答式を作る。唯一の難関であった音声は両者から採取することで何とかなった。
あの兄弟は外見も性格も似ていないが、声だけは瓜二つだった。だから二人に渡したものは、ある意味で兄弟初の協力作品なのだろう。
私が彼らに貸与したのは、互いに似せた模擬人格プログラムだ。