彼が私の玄関を開けるとき、ノックを一回だけする。そして勝手にドアを開けて私の前に顔を出す。彼は鍵を開ける技術に長けていて、うちのような旧式のシリンダー錠など十秒とかけずに開錠してしまう。
「よう、博士」
彼が私の家に来る理由は一定している。金の無心だ。そうでなければ暇つぶしか、腹を壊したかの二択に限られる。金などないと突っぱねても、なら何か食わせろとせびってくるのだから厚かましい。だが彼特有の飄々としか雰囲気が幸いして悪感情を抱くことは少なかった。
「相変わらずゴミ溜め住まいだな」
「何の用だ。金を貸せと言うのはツケを払ってからにしろ」
「お見通しかよ」
大きく舌打ちをして、彼は埃だらけのソファにどっかり座った。
「今度は何を作ってるんだ」
「秘密だよ」
私が延々タイピングしているのを興味なさげに眺めて、彼はソファに寝転がった。微かに聞こえた異音は腹の音だろう。今回はかなり困窮しているようだった。とはいえ、私が慈善で金をやるのは後々良くない結果を招くだろう。では如何するか。
――そうだ。
「腹が減っているなら、私の作業を手伝ってみないか」
私が作っていたプログラムには声が必要だった。人工音声は時間も手間も長く掛かってしまうが、彼の声を使えばプログラムが完成するのが数週間分は早まる。
彼は二つ返事でその案に乗った。一日二日で終わる仕事ではなかったが、その分実入りが良いので文句は言われなかった。
そうして私はプログラム完成にまた一歩近づいたのだった。