俎上の鯉の捌き方
ジャックは馬鹿だ。
隠れんぼで冷蔵庫に入って出られなくなるタイプだ。
だからあいつはまな板の鯉。
俺の敷いた青いまな板で視線をさまよわせてはさあどうしようと俺を盗み見る。バレバレだと気付いてないのがまた何とも。
「脱げ」
いつもは俺が好きに脱がせていたので、今回はジャックのペースにさせてやろう。もちろんのろければ俺が手伝おうと画策していたの
だが、ジャックは割合ちゃんと脱いだ。しかし手が震えてところどころミスしている。だからボタンのある服なんて着なきゃいいのに、こいつ
は外見ばかりを気にする。外面は気にしないくせに。
じっとそれを観察していたら、またジャックがちらちら視線をよこす。今更見られて困るようなとこもないだろう、そもそも男同士だ。
「お前は、脱がないのか」
ベルトに手をかけていたジャックが、ぽつりとこぼした。ああそうか、それが気になっていたのか。言われてみれば俺は今フル装備だ
った。ワックスを捏ねる手も手袋を嵌めていて、露出しているところが少ない。対してジャックはほとんど肌色だ。ズボンを脱いだら何
もなくなる。
ネットで発掘した情報を基にこれから行うことをシミュレーションする。実は今日一日に幾度となく脳内で繰り広げられていたのだが、
実物を目の前にすると多少の食い違いがあった。修正点を加えた上で再シュミレートすると、どうも俺も脱いだほうがよさそうだった。
ワックスが勿体無かったので手袋を外すときジャックの髪に揉みこんでみた。まとまっていた髪が意のままに曲がりくねって、ジャック
はそれを察してすぐ手櫛で毛先を整えていた。どうせぐしゃぐしゃになるのにな。
ジャケットとシャツを脱いでその辺に投げた。ジャックの手は外れたバックルで止まっている。脱ぐ気がないのか、なら俺が剥ぐ。
「うおぁ」
おお、見事。両膝の布部分を思いっきり引っ張ったらズボンも下着もすっぽ抜けた。何かの職人技みたいで少し感動だ。
「な、び、びっくりした」
「遅いからだ」
ウロコを剥いだ鯉がまな板に乗っかった。じゃあ俺はさしずめ板前というところか。
なら、まずは基本に沿って捌いていく事にしよう。
……ええと、最初の項には何とあっただろう。
「要望があるなら善処するが」
そうだ『相手の希望を尊重させましょう』だった。
「ああ、ええ、ううん、何だ…………変なことはするな、よ」
お前基準の変なことって何だ、と思ったが俺は頷いておいた。今大事なのは雰囲気作りだ。などと考えながらも俺は既に脱線していた。
掌をジャックの胸に乗せていた。俺の肌は浅黒く、ジャックは白い。余りに違うグラデーションとジャックの照れように、ちょっと反応
しかけた。隠しおおせたのは通年の鉄面皮の賜物だろう。
まずは軽くスキンシップ。胸に乗せた手で各部を撫で上げていく。首、腕、腹、太腿ときて足にまで。ジャックの足裏は予想外に硬い。
初めて触る部位だったので、つい撫でるというより揉む感じになってしまった。くすぐったいのか脇腹が微かに震えていて、むかついた
ので親指に噛み付いた。息が止まるのが振動で伝わってくる。
…………そもそも俺はどうしてマニュアルに準拠しようと思ったのだろう。ジャック相手にそんなの必要ない。だってこれはセックスではない
んだ。セックスとは男女間で行われる性交房事交接のこと。だから俺たちがするのはセックスじゃない、ただの行為だ。
くるぶしからふくらはぎまでを舌で撫でた。ジャックの素足を見るのは初めてだった。ちゃんと筋肉が付いていて噛み甲斐がある。け
れど太腿まで上がると弾力が出てくるのだから人体は不思議だ。一度唇を外して上半身に目を移す。白かった肌がうそ赤くなっている。
顔を見たら、ジャックは頬も耳も真っ赤に染まっていた。全身の血が集まったみたいだ。口を固く閉ざしているが喉仏が揺れている。気
になったのでそこも噛んでみた。まるで吸血鬼の図式。吸血鬼の板前なんて、俺は忙しい身の上だな。
舌の上で直に喉が動く。ゆうせい、聞こえた。こういうときのジャックの鳴き声だ。ここはいい。聞こえなくても言葉が分かる。俺は
ジャックの喉が気に入った。
腰のあたりに違和感を感じる。何かが当たる感触、身に覚えがあった。背骨の稜線をなぞるとその感触が強くなった。ゆうせい。鳴き
声が鼓膜を揺らす。何だか堪らなくなって、俺は手を動かした。性急に、持ち上がったジャックの股間に。
「うあ、あああ」
鼻から抜ける高い声。低く響くいつものとは違う。機械的に上下に扱いた。俺の目的はそこにはないから、ある程度になったら止めた。
ゆうせい。鳴きだした口内に指を二本、挿し入れた。あえて何も言わずに。ジャックは半疑顔で舌を動かす。全体が湿ったらそれを抜い
て、さてここからが本番だ。
まず一本、指を突っ込んだ。酷く抵抗がある。ジャックも苦しそうに呼吸を乱れさせている。やはり潤滑油が欲しい。ここにあるのは
駄目だ、全部却下された。でもやりたい。俺はすごくやりたい。
一度指を抜いて自分で指を舐め直した。滴るくらいにたっぷりと。それを繰り返して突っ込む本数を増やしていった。ジャックは相変わらず苦
しげだった。
「いれるぞ」
目を見て伝えた。ジャックは頷いた。それだけで良かった。
体勢をうつ伏せにさせ、腰を上げさせた。穿いたままだったズボンから俺のを取り出してジャックに宛がう。見るからに竦んでいる腰
を掴んで俺は強行した。少しずつ、俺が埋まっていく。ジャックの声が聞こえない。
太腿に何かが伝った。拭ってみるとそれは鮮やかな赤で、ジャックの血液だった。どこもかしこも白いのに血は赤い。当たり前だジャ
ックは人間だ。俺は何を考えているのだろう。
くそ、熱い。内股の比じゃない、俺はこんなの知らなかった。鋼鉄の灼熱ではない、はんだのようにねっとりした高熱。快感のボルテ
ージが一気に引き上げられていく。少し動くとジャックが呻いた。少しも色の乗っていない音だった。俺は挿入してからジャックのに触
れていなかった事に気付き右手でゆるく握った。ほとんど萎えたソレは今のジャックそのものだ。ゆっくり揉んだり扱いたりを繰り返し、
ちゃんと上へ上へと昇らせていく。こういうのは、相手が気持ちよければ俺も気持ちいいのだろう。内の締め付けも具合が変わってきた。
脳の奥がじんわりと滲む。何だこれは。
動物的な本能だった。ジャックの顔をこちらに曲げさせて唇を重ね、舌と唾液も一緒に舐めた。途端に走る電気のような痺れ。股間に
直結する疾走感に、俺は夢中になった。舌と舌が絡んで、唾液がジャックの顎を濡らした。
「ゆうせい」
重ねた唇から声が。これは鳴き声じゃない。ジャックが俺を呼んだんだ。
「じゃっく」
俺の髪がぐしゃりと歪む。ジャックの手は温かかった。そのまま呼吸を奪った。奪い続けて、舌はずっと絡んだままだ。
腰を動かして手を動かして、とてもとても気持ちが良い。ハイになっているみたいだ。唇の電流と締め付けに彩られて、俺は満たされ
ている。
ああ、あああ。
もうどっちがどっちだか分からなかった。これが俺の声なのかジャックの声なのかすら分からない。混ざっている。今の俺たちは二体
で一心。ぐちゃぐちゃのマーブル模様を描いて落ちていく。
覚えている最後に、声が聞こえた。
その言葉ではない声は、耳に心地良かった。
目が覚めると、俺はジャックに覆いかぶさっていた。そのまま寝たのか気を失ったのか。とにかく重なったままで、入ったままだった。
「遊星、早く抜いてくれ」
ジャックは先に目が覚めていたらしく、けれどただ両手で顔を隠しただけだった。恥ずかしいのか、俺はそうでもない。
上から見下ろす白い肢体。いつもと同じようで、何かが違う。繋がったときに、何かが決定的に変化した。俺が感じていることを、ジャ
ックも感じているのだろうか。そう考えたら抜くのが惜しくなった。
「まだ」
汗まみれのジャックは、もう無理だからな、と掠れた声で返した。
汗まみれの俺は、もっとやりたい、と我ながら熱っぽい声でそれに返した。
身内に「(若さに〜の)後が重要じゃないか!」と怒られました。モロのくせに青くせー二人。
竜のアザって現段階でよくわかんないよね、ということで見ないふりです。
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