[↑]
大学内でマシューが呼び出された。
何だろう、首を傾げながらぱたぱたと事務室に向かう。一般生徒にとって縁遠い部屋には知らない大人達が書類に向かっていた。
「まったくここは田舎だなあ」
その中で全く空気を読まず、来客用と思しきソファーにふんぞり返るスクエアフレームのブロンド。
片割れを見ても、もうマシューの胸が痛むことはない。
言いたいことはもう言った。なら、このヒーロー様には元の場所に帰ってもらわなければ。
ここはマシューの領域だから。アルフレッドの居ていい場所じゃないから。
「……何しに来たの?」
「君が通うキャンパスを見学しに来たのさ」
スーパーマーケットに入店するような気軽さで、アルフレッドはここまで来たのだろうか。
「ここには何もないって言っただろう? 学部も購買も君の大学の方が充実していて」
「でもマシューが居るじゃないか。暇じゃなきゃこんな田舎まで来ないよ!」
そうだ、アルフレッドは理由がなくては動かない、とても合理的な性格の持ち主だった。じゃなきゃ列車の固い椅子に座ってまで此処まで来ない。こんな田舎まで。
「ならさっさと帰ってよ。早く帰って。大学に戻って勉学に励みなよ、こんな田舎に居ないで」
「駄目だ。マシューが戻らないなら帰らない」
冷静を心掛けていたマシューの脳内が、瞬間的に燃え上がる。マシューは伝えたはずだ、久しぶりに会ったあの夜に。
帰れ、今の自分は幸せなのだと。
それを忘れて、己の為にマシューの幸せを奪おうというのなら。
「――馬鹿だね。僕は帰らないんじゃなくて、帰りたくないだけだよ」
にっこりと笑い掛ければ、片割れはいつだって言葉に詰まる。前は「笑った顔がかわいいから」だって言っていたが、今は違う。アルフレッドだって成長したなら分かるはずだ。笑顔の向こう側には、これ以上踏み入って欲しくない拒絶があるということに。
いつもはおっとりとしたマシューから漂うのは、明らかな拒否。
アルフレッドが幾らぶつかっても砕けない、幾重にも連なる決意。
奔放に生きることを許されていた者には理解できないだろう、臆病者の仮面は案外強固なのに。
「どうして、帰りたくないんだい?」
「もう君には教えただろう。堂々巡りは嫌いなんだ」
事務室には二人以外が発する音がする。電話が鳴る、プリンタが動く、紙を捲る。事務員が二人を外面だけでも無視しているからこそ、マシューは冷たい言葉を吐けた。アルフレッドが絶句するほどの、ハイスクール時代なら絶対に言わなかっただろう強い言葉を。
「これが最後通告だよ。帰って。何なら駅まで送ってあげるから、お金がないなら貸してあげるから」
薄く笑うマシューはアルフレッドとそっくりで。
だがその事実を知るのは、その場に居合わせた事務員達だけであった。
あれ…キューさんが大暴れしなかった…(計算ミス)
マシューは腹黒じゃなくて本音の出し方が痛烈なだけです。
09/05/18
[↑]