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「あのメープルシロップは無えのか?」
キューバの何気ない一言に、カナダは己が失態を犯したことに気付いた。
時は三月にまで遡る。
存在感ゼロを払拭する為の打開策をカナダは思い付いた。エイプリルフールを利用して他国と交流しよう。でも近所には騒音甚だしいアメリカしか居ない。しかもその国は兄弟ときたものだ。存在感ゼロの元凶とも言える奴は他国と勝手に盛り上がるに違いない。
なら何処の国の方と盛り上がろうかと思案して、プロイセンがドイツにブログ云々の会話をしていたのを思い出した。彼のことだから自己主張激しいタイトルになっているのだろうと検索したら、やっぱりなタイトルだった。
エイプリルフールと銘打ってはいるが、カナダの目的は嘘を付くことではない。カナダ名物を広めて、国際会議で「あ、カナダだ」と固体認識されるのが最大目標であった。
……最大と称している癖に内容がささやかなのに、カナダの薄幸具合が見て取れる。
彼は「アメリカ似の誰か」とか「アメリカの子分」と呼ばれたくなかった。この際メイプルの人でも構わないから、とにかくアメリカ云々の呼称から脱却したかった。カナダはプロイセンと会話した事がなかったが顔見知りではあるので、勇気を振り絞れば物品ひとつくらいなら渡せる……はず。
そしてカナダはエイプリルフールに向けて、メープルシロップ作りに取り掛かった。
プロイセンに渡した「幸せのメープルシロップ」はかなり好評だった。ブログで褒められて思わずにやけてしまったくらいだ。
これで少しは僕の知名度が上がったかなあ、とカナダは上機嫌だったのだが。
「プロイセンにやったメープルは、まだ残ってるのか?」
遊びに来たキューバの言葉に、カナダは石化した。彼の分は残しておこうと思っていたのに、ものの見事に忘れていたのだ。
「ごめんなさい、キューバさん! 俺、すっかり忘れてて……」
「なーんだ無えのかよ。じゃあ作り方教えろよ」
「う……」
メープル関連の話題には必ず食いつくはずのカナダが言葉を詰まらせた。何か不味い事言ったか? とキューバは内心首を傾げるが、全く心当たりが無い。
キューバがそんな事を考えていたとき、カナダは今までに無いくらい頭を回転させていた。キューバに何と返答すればいいのか、真実を告げるべきか適当にはぐらかすべきか、必死で考えていたのだ。実のところ、幸せのメープルシロップを作るのはそう難しいことではない。だが問題はその作り方で、キューバには絶対真似が出来ないだろう。
なにせ、作り方がまんま魔術なのだから。
育ての親の影響か英連邦の繋がりか不明だが、実はカナダも怪しげな魔術を使えたりする。ただ戦争に使ったことはなく、せいぜいメープルシロップを美味しくするのにちょっと行使するくらいだった。
「なんだ、作れねえってのか」
「え、いえ、作れと言われれば作れますが」
「……何だあ、俺には言えねえってかい」
キューバには似合わないしょんぼりとした声音に、カナダはえらく慌てた。彼が肩を落とすのは己に落ち度があるときくらいだ。つまり現在、キューバは思い違いをしているらしい。誤解されたくないけどしょうがない、とカナダは腹を括った。
「サトウカエデの樹液と、素敵なものをたくさん。これで幸せのメープルシロップが作れます」
「……はあ?」
肩を落としていたキューバが眉を上げる。前者は分かるが、後者は何だ。オカルトの類に興味がないキューバには、カナダの発言に疑問しか覚えなかった。
「サトウカエデの樹液を煮詰めているときに、十年分の素敵なものを放り込むんです。そうすると十年分の幸せを凝縮したメープルシロップが出来上がるんです……や、嘘じゃないですからね。怒らないで下さいね!」
今にも怒鳴り声を上げそうなキューバの様子に、カナダは縮こまって謝り倒した。そりゃ信じないだろう、素敵なもの十年分なんて曖昧な無形物をメープルにぶっ込むなんて。でも本当なのだ。カナダは真実、プロイセンの為に十年分の素敵なものを消費した。独立当時の埃を被ったものばかりだったが、どれも輝かしく懐かしいものばかりだった。
それをどうやって煮詰めるのか、説明するのが難しい。感覚の問題なのだ。
オカルトには門外漢同然のキューバには、分からなくて当然の話題であった。
「カナダ」
「……はい?」
「十年分の素敵なモンとやらは、全部なくなっちまったのか」
「はあ、まあ、そうですね。プロイセンさんにあげちゃいましたから」
落とした肩を怒らせていたキューバは、ここに至って大きくため息を吐いた。カナダにとっての素敵なものなんて、サトウカエデと白熊とアイスくらいしか思い浮かばない。でも彼の思い出が他人の為に消費されるのは我慢ならない。
「要らねえ」
「え」
「幸せのメープルシロップなんて要らねえ、って言ってんだよ! お前とホットケーキ食ってりゃ勝手に幸せが降りてくらあ!」
カナダと一緒に居られれば幸せ、と言い切った男前・キューバ。
対して、言われた側のカナダはといえば。
「え、あ、う」
白い頬をこれ以上ないくらい真っ赤に染め、余りの男前発言に腰を抜かしそうになっていた。
――どうしよう。プロイセンさんにあげた十年分、今の言葉で元取れちゃった気がする。
自分のことに気を取られていてカナダは気付かなかった。
キューバも同じように赤面していることに。
結局カナダはキッチンに逃げ、動悸を落ち着けながらホットケーキを焼いた。
それに二人はメープルシロップをこれでもかと掛け、いつものように美味しく食べた。
「カナダのホットケーキで俺の十年分はすぐ満杯になっちわまあ」
ぽつりと零れたキューバの一言に、またカナダは赤面する羽目になった。
本家様エイプリルフールの幸せのメープルネタ。原材料が気になったので捏造!
カナダは仏譲りの料理センスと英譲りの魔術センスがありそう(でも目立たない
つかキューバさんのブログ見たい。すっげー気になる。
09/05/02
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