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思い出さずに忘れずに





 僕がキューバさんを好きになった理由? そんな事をわざわざ聞くかなあ。
 別に話してもいいけど、多分惚気にしかならないよ?

 ……それでも構わないって、君も相当物好きだね。
 でも君も知っての通り、誰かが誰かを好きになるのに規則性はない。最初にきっかけがあるくらいで、あとは絡み合った事象から恋、あるいは愛に発展していく。だからこの話は参考にもならない。ただ胸焼けするだけだよ。
 ああ、好きになった理由だったね。
 前述の通り、恋を自覚するまでに色々イベントがあったから一概にコレだったとは言えないね。そこを語り出したら恋に恋するティーンみたいになっちゃうだろうし、何より長いから割愛させてもらうよ。
 ……そうだな、あえて挙げるなら、あの容姿かな。性格とか彼独特の行動理論もあるけど、見た目が一番分かり易いだろう?
 ほら、キューバさんって腕太いだろう。あれ全部ちゃんとした筋肉で、殴られるとすっごく痛いんだ。最初は何度かやられたからね。誰かさんに間違えられてさ。その実戦でも通用しそうな筋肉が全身を覆ってる。それって同性から見たらとても魅力的だろう?
 少なくとも、僕は憧れちゃうね。強い男ってのは、同性異性問わずカッコイイもんさ。
 さて、この部分だけで半分語っちゃったみたいなものだけど。あと半分、聞くかい?

 ……本当、物好きだね。後悔しても知らないから。
 じゃあ、あとの半分だけど。
 浅黒い肌と黒い髪。大きい手と太い指。ビビットな色遣いの服装。煙草の匂い。サンダル履きのときの足音。踊るときの軽快なステップ。甘い香り……外見と関係なくなりそうだな、これくらいにしとこうか。僕は彼に参ってるんだ、フィルターが掛かるのは不可抗力。反対意見は認めないよ。

 特に肌の色がね、好きなんだ。

 ほら、僕の家って北国だろう。冬場にちょっと前に外を出歩いてたら急に吹雪いて、視界が一気にホワイトアウトしちゃった事があったんだ。あのときの混乱と絶望感、君には想像もつかないだろう。前方一メートルも分からない、下手すると眼前にある自分の掌も視認できない。白い闇に閉ざされた空間ってのはああいうのを言うんだろうね。だから、僕は白よりも黒が好きなんだ。そこにきてキューバさんは全身好きな色づくめだ。僕にとって彼は、大量の雪でも覆えない大きな道標。ないと困るよね。
 それに何より、キューバさんって春の土みたいなんだ。
 生き生きしているというか、力強いというか。初めて見たときはそう思った。今もそう思ってる。彼は南国だからか体温が高くて、心音も大きい。春の土を掘り返して手を入れたときと良く似た、安心できる温かさなんだ。外側をじわじわ覆っていって、いつの間にか内側まで同じ温度、なんてね。
 勿論、この理由はあくまで氷山の一角。全部なんて語り尽くせない。
 だって会う度に新しい魅力に気付いてドキドキしちゃうんだから。



 ……ほら、やっぱり僕の言った通りだったじゃないか。
 他人の恋愛話は毒だよ。胸焼けとか悪酔いを誘発しちゃうから。








話してる相手はアメリカ以外の誰か、ということで
タイトルは都々逸「思い出すよじゃ惚れよがうすい 思い出さずに忘れずに」から

09/09/01

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