[]

※捏造メキシコさん注意


my fair Queen!





 古馴染みの友人から久しぶりに電話が掛かってきた。
『しょうえいもんがあるんけんど要らんか?』
「いらねえ」
『なんだ、つまらんなあ。おんしにゃ好奇心ってものがないがか』
「お前の面白いは碌なもんじゃねえだろ」
『安心しい、叩いてホコリが出る類のがやから。んじゃ送っとくぞ』
「ちょ、おめ……話聞けよ!」
 ということで、俺の家にどうにも分からない荷物が届けられることになった。




 ワレモノ注意・天地無用諸々のシールで彩られた段ボール。全長は一メートル程度、持ち上げると少々重い。
 受取人の欄には「キューバのクーバへ」と国内の人間が見たら首を傾げるだろう名が書かれていた。あいつらしいといえばらしいが、少しはものを考えろ。
 送り主の欄には乱雑な字で「ジョージ・ワシントン」と書かれていた。あからさますぎる偽名だ。そもそも、その名を使うのなら送り先からして間違っているのに気付かない奴ではないだろうに。暇つぶしに使われたのは自明の理だ。
「……爆発したりは、しないよな。流石に」
 悪戯心だけで人格が出来上がったような奴だが、友人宛の荷物に危険物を仕込む馬鹿ではない……と思う。ガムテープで封をされた荷物に耳を当て、中から時計の音や生物の蠢く音が聞こえないかを確かめる。何もない、そう五割方確信したところで意を決してガムテープを剥がした。緩衝材に包まれた中身はよく見えない。ええいままよ、面倒になって緩衝材諸々を勢いよく引っぺがしていく。
 そして出てきたのは、人形だった。胎児のように膝を抱え、両目を固く閉ざしている。
 こんなものに面白いも何もあるものか。
 憤慨しながら撒き散らした緩衝材を拾い集めていると、何か書かれた紙切れが隙間から零れ落ちた。

『“理想通りに振舞ってくれるシークレット・アンドロイド。あなた好みに育ててね!”だそうじゃ。アメリカからの正規輸入品じゃけんど使いよらんからあげるよ。有効活用してな。 おんしの友メヒコより』

 危うく捨てそうになった紙切れは、あろうことか送り主からの手紙だった。
「あいつ……俺を何だと……」
 俺は人形欲しい的な発言をしたことがあっただろうか。いや、ない。酒と女とダンスの話しかしていない。脈絡がないのはいつものことだが、こんな大きな人形を飾るには俺の住まいは少々手狭だ。
 困る。ああ困る。
 梱包を解いた人形は、誰の好みなのか見事なブロンドは肩甲骨まででカットされている。豊満な胸と細い脚は理想的なカーブを描き、白い肌と桜色の唇は深窓の令嬢を思わせる。
 食指が動かないのかと問われれば答えはノーなのだが……さて困った。
「理想通りに振舞ってくれる」というアメリカ製らしき人形。その触れ込みから察するに、これは動くのだろう。喋るのだろうか。アンドロイドなんて大層な代物ならAIを搭載しているのかもしれない。現代の科学力なら出来ない事ではないのが恐ろしいところだ。
 数分うろうろしながら思案して、しょうがないという結論に至り俺は受話器を手に取った。ダイアルする番号は掛け慣れた国外に向けたもの。いつもならワクワクするコール音だが、今回ばかりは耳に重く響く。
『はい』
「ようカナダ」
『あっ、キューバさん! お久しぶりです』
 途端に弾む相手の声。いつまで経っても敬語口調から抜け出せない彼は本当に嬉しそうだ。俺から電話するだけでこれだけ明るくなるのなら、これから頻度を増やしていこうか。
 だが、それより先に解決しなきゃならない問題がある。カナダがどう思うか予測不能だが、手遅れになる前に終わらせておくべきだ。
「カナダ、シークレット・アンドロイドってのは知ってるか」
『はい? ええ、アメリカの家で開発された自律行動型の愛玩人形ですよね。それがどうかしましたか?』
「実はな、諸々の事情でうちにソレがある。けどうちにゃ置けねえから処理方法を訊きたい」
『…………あるんですか』
「ある」
『今、貴方の家に?』
「足元の段ボールに入ってる」
 ……無言。
 温厚でほわほわなあいつでも、流石に怒るだろうと思った。だってあんな造形なんだ、愛玩物ってことはソウイウコトに使われるのも想定されているに違いない。浮気、心変わり、飽きた、寂しい。一人じゃ足りない幾つかの理由。けど俺はあいつに心臓持って行かれてるんだ。自白するのが誠実の証だと考えてくれ……なんて願うのは、自分勝手というものか。

 音のしない受話器。
 聞こえないあいつの感情。

 俺は選択を間違えたのだろうか。何も言わずにこれを処理すれば良かったのだろうか。だがこれも人型をしている以上、ごみとして捨てるのには抵抗がある。解体して袋に入れるなど言語道断だ。だから製造元の隣国であるあいつに尋ねるのが良いと思ったのだが。
 怒らせるのは構わないが、もし泣かれていたら。
 受話器からは何も聞こえない。電波の先には誰も居ないのでは、そう錯覚してしまいそうな無音。何か言うべきなのか、何を言うべきなのか。
 これだから電話は嫌だ。相手の顔が見えない。


『明後日、午前の便』
「……あ? 何だ?」
『それは僕が回収します。いいですよね』
 怒るでもなく、泣くでもない声。無表情で機械じみた平坦な音。初めて聞く声音から察するに、かなりご立腹のようだ。
「そりゃ勿論構わねえけど、スケジュールは平気なのかよ」
 火に油を注ぐのを承知で尋ねると、駄目でも行きますよ、と分かりきった言葉が返ってきた。あいつにしては珍しい、剥き出しの感情表現。怒るカナダも可愛らしいが、理由が人形というのが締まらない。まして送り主がメヒコ。他人のせいで喧嘩なんて嬉しくも何ともなかった。
 誤解は早々に解くに限る。
『諸々の事情とやら、着いたらじっくり聴かせてもらいますから』
 その台詞を最後に通話は切れた。耳に当てる意味をなくした受話器を戻し、元凶である人形を見下ろす。
 見れば見るほど可愛らしい、男から愛されるように作られた女。髪の一房からつま先の爪まで、あらゆる理想を具現化した人形。美術品のような美しさ。けれどそれだけだ。
 生憎と俺は人形遊びは好きじゃない。心が揺れ動く相手は一人だけだ。



 白状するなら、俺は相当カナダに惚れ込んでいる。
 憤怒を浴びせられると分かっていても、破局の芽は摘んでおきたい。そう考え実行してしまうくらいには。
 明後日は早めに空港に向かおう。女王様への言い訳もきちんと考えて、部屋を片付けて。
 ……ああ、やっぱり駄目だ。怒られるってのに頬が緩んじまう。
 あいつがここに来ると思うだけで、俺は。








キューバさんはカナダさんにベタ惚れなんだぜ!な話
メヒコさんがエセ土佐弁の悪戯好き設定なのは管理人の趣味です
(※クーバはキューバ、メヒコはメキシコのスペイン語読み)

09/10/13

[]