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Casked Gold Bier





 窮地に陥ったときに唱えるまじない。戦が終わった瞬間に呟く一言。肩から力が抜けるひとときに思い出す名前。
 ――それらは全て、同じ言葉だ。

「ヴェスト」






 俺は兄さんの笑顔ばかり見ている、気がする。
 ヴェストヴェストと俺を構い倒す、一人ぼっちを自称する寂しがりの兄さんだ。
 一人だ何だといつも騒いでいるが、オーストリアやハンガリーが構ってくれるのだから仲良くすればいいのに。いや、それを出来ないのが兄さんの兄さんたる所以か。兄さん――プロイセンは今でこそドイツと併合されているが、今でもスペインやフランスとは悪友と呼ばれているらしい。
 何だ、友達居るんじゃないか。悪友話を聞いたとき、兄さんに問うと「メルアド教えてくれなきゃダチじゃねえ」と返ってきた。確かに携帯やパソコンは便利だが、アドレスを知らないと友達にすらなれないのか。でもスペインとロマーノは連絡なしでトマトぶつけ合っているし、アメリカに至ってはアポ無しで日本に乗り込むという。
 つまるところ、兄さんの口癖は杞憂なのだ。
 観察する分には楽しいのだろうが。



「ヴェースト」
 ビールを片手に持った兄さんの気分よさそうな声。それに呼ばれてソファに座ると、頭をぐしゃぐしゃにされた。
「よし! 俺様のヴェストだ!」
 何が何だか分からないのだが、酔っ払いに理屈は通用しない。俺もビールを開けて、酔う努力をした。
 酔っ払いの理屈は酔っ払いにしか通用しないのだ。
「うー、癒されるー」
 今度は太腿に額を擦り付けて、意味不明なことを言い出した。摩擦熱で煙が出そうな勢いだ。そんな肌触りの良いズボンではないのだが、きっと今の兄さんには関係のない事なのだろう。だって酔っ払いだ。
 太腿への摩擦攻撃に飽きると、今度は腹に顔を埋めた。筋肉質な身体は硬いだろうに、何が楽しいのだろう。まだ酔っていない俺には理解不能だ。
「なーなーヴェストー」
「どうした」
「俺様すっごい幸せー」
 素面のときのように変な声を出して笑わない。ただ幼子のように、にへらと相好を崩す。
「俺様の家はヴェストの家ー」
 にまにまとする兄さんには、今このときがどう映っているのだろう。弟と居るのが幸せなのか、一人じゃないのが幸せなのか、それとも他の要因か。他国から石頭と称されるマニュアル思考では、よく判別が出来ない。こういうとき、イタリアが羨ましくなる。あいつは言葉より感情を優先するから、何を言っていても真理を直感で理解するだろうから。
 だが、あのイタリアになれる訳が無い。
 だから俺は酒を空けるピッチを上げる。酔っ払いを理解できるのは酔っ払いだけなのだ。
「ヴェストー俺のヴェストー」
 ちょっと待っていてくれ、兄さん。俺も早めにそっち行くから。



 酔えば酔うほど兄弟の境界が曖昧になる兄さんの悪癖は、俺が止めないから加速しっ放しだった。かく言う俺も、酔って記憶が途切れているから――酔っ払った俺達の間で何が行われているのかは不明だ。
 でもきっと、知らない方が精神衛生的に良いと思う。
 何故なら、兄さんと飲んだ翌日はいつも身体が重くて心が軽いのだから。
 ……兄さんも記憶がないようだから、この謎はずっと謎のままにしておいたほうがいいだろう。
 酔っ払いのじゃれ合いなんぞ、憶えていたところで脳メモリーの無駄だ。








身体が重い理由はマジ喧嘩からR18まで幅広いと思います。
プーは笑い上戸で泣き上戸だったらうざかわいい。ドイツは怒鳴ったりふにゃったり忙しかったり。

09/06/04

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