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アメリカと間違われるのに、ほとほと疲れた。
あの天然悪辣な兄弟のせいで、未だにキューバに間違われることがある。
「――こんな酷い国際交流、もう嫌だ!」
一念発起したカナダは、勘違いされる原因である外見を変えることにした。
まず眼鏡を外してコンタクトにしてみた。
初めて装着するとき正直怖かったが、痛みや異物感は気にならないし外に出るときだけ付けることにした。
次に髪型を変えた。
アメリカと違って指通りの良い髪質なのでゴムで括ってもすぐ抜けてしまう。しょうがないから美容院でパーマを当てた。
あと服も意識的に変化させた。
正式な場での服は変え様がないので、とりあえず私服から変えることにする。パーカーにジーンズは絶対駄目だ。でも服装のイロハなどちんぷんかんぷんなので、とにかくラフじゃなさそうなものを買っておく。靴もちょっとお洒落なものに変えた。
……全てを終えた自分を見ると、何だか不思議な感じがした。
鏡の人物は本当に自分なのだろうか。
「変われば変わるものだなあ」
コンタクトが外れないかハラハラするけど。
意味もなく重ね着した服がちょっと重苦しいけど。
ゆるくうねるハニーブロンドが頬に当たってくすぐったいけど。
この劇的な外見の変化でカナダは確信した。
「うん、アメリカと全っ然似てない!」
ちょっとやり過ぎた感があるが、ここまで違えば誰もアメリカと見間違えることはないだろう。むしろ誰? と尋ねられる事が多くなりそうだが、それはしょうがない。イメージチェンジに疑問は付きものなのだから。
「よーし、本当にバレないか確かめに行こう!」
クマ之丞さんも「誰?」と言ってたくらいだから、ヨーロッパの国々も気付かないに違いない。今回の目標は「アメリカ」と呼びかけられない事。カナダは自信満々に飛行機に乗り、まずはイギリスに向かった。
「てめえ誰だ」
イギリスでは緑の目にぎっと睨まれたので、カナダは肝を冷やして早々にドーバー海峡を渡った。
「なあ君、お兄さんと一緒にお茶しない?」
フランスでは育ての親にナンパされたので息つく暇もなく国境沿いを走ればスイスに銃撃され、ほうほうの体でイタリアに向かった。
「ボンジュール、きみ可愛いね〜」
のほほんとした笑顔を向けられたのでカナダも笑い返した。ここに来てやっと観光する余裕が生まれたが、カナダの大目標はあくまで自己の確立である。それを思い出したのはマルゲリータを平らげた頃で、でもついでなのでトレビの泉にコインを投げ込んできた。
オーストリアは特に何事もなく通過できた。
だがその先のドイツにて、カナダは偶然プロイセンと顔を合わせてしまった。
「んあ? お前は……カナダか?」
「……僕が、分かるんですか?」
「そりゃ分かるだろ……って、何だぁ?」
運の尽きと思ったのは間違いだったらしい。プロイセンは自分を見てカナダと呼んだのだ。アメリカじゃなくて、カナダ! これでどうしてガッツポーズを取らずにいられよう。
……余談だが、プロイセンはアメリカと面識がない。しかしカナダはそれを知らなかった。世界一の大国の面相を知らない国が居るとは、カナダでなくても予想できなかっただろう。
それはともかくとして、カナダは歓喜した。涙が溢れるほどに。
「プロイセンさん、ぼ、僕が誰だか分かってくれますか!」
「分かるっつの、涙拭けよ。前のメイプルシロップ超うまかったぞーもっとくれ」
「沢山差し上げます! 今度ドイツさん家に箱一杯送りますね!」
幸せ絶頂のような顔で、カナダはプロイセンに笑いかけた。それを真正面からぶつけられたプロイセンは疑問ありげに首を傾げる。言わずともその顔には「何でこいつこんな喜んでんの?」と書かれていた。
袖で涙を拭って、またほわりと笑うカナダの喜びなどプロイセンには理解できないだろう。ドイツでありながらドイツでない彼には。異なる個でありながら同列の名を誇りとするプロイセンには。
「お、分かったぞ。お前、イメチェンしたのを自慢しに来たんだな!」
「良く分かりましたねプロイセンさん。だいたい合ってます」
「だってお前、いつもならキューバに見せびらかすだろ。けどキューバんトコのブログにのろけ報告載ってねーし。つことはアレだろ、俺達に毒見をさせてからメインディッシュに向かおうって腹だろ」
「そんな物騒な理由じゃないですよ。ヨーロッパ旅行しながら方々の反応を見てたんです。僕をアメリカと間違えないか」
誰も間違えないどころか、プロイセン以外には正体すらバレなかった訳だが。
「ならさっさとキューバんとこ行けよ。そろそろセット崩れかけてるぞ」
「あーそうだった! ありがとうございますプロイセンさん、ドイツさんによろしく伝えて下さい!」
じゃ、と手を振りながら走るカナダをプロイセンはぼうっと眺める。
「あいつ、足遅ぇーなぁ……」
ほわほわとした全体像で足が遅い。あれでは確かに、行き帰りが心配にもなるだろう。
「まー別に、俺様には関係ないしな」
などと口で言うが、うずうずする心は止まらない。カナダのあれこれを誰かに教えてやりたい。特にあの格好を!
結局プロイセンは誘惑に負け、登録件数の少ない携帯で使用回数は皆無に等しいメール機能を使用した。
相手はもちろん、アメリカを毛嫌いするドレッド男にである。
もう両手で数え切れないほど訪れた国は、ヨーロッパより暑かった。
カナダは少々くたびれた格好で携帯を握り、はたと気付く――キューバさんに来ると伝えていなかった! ノーアポで行き来するのは駄目だと自分で決めていたのに、自分が破っちゃった! と。
空港からキューバの家までの道は覚えている。覚えているが、ルール違反をしたのに行っちゃいけないだろう。しかし空港の最終便は既に離陸していて回れ右も出来ない。ビジネスホテルに泊まってもいいが……キューバの家が近くにあるのに、それが悔しくて眠れないんじゃないだろうか。
「でも、勝手に行けないしなあ……」
陽は既に落ちている。野宿はキューバに口酸っぱく止められているし、やはりホテルで一泊するしかないようだ。
少し、ほんの少しだけ涙を滲ませて、カナダはホテルに向かった。
「おい」
涙を一粒落としたら、拍子でコンタクトがずれた。何とも言えない不快感があるが、洗っていない手で眼球に触れたくなかった。いっそ両目ともコンタクトが落ちてしまえば、良い笑い話になるのに。
「……何泣いてんだよ」
ヨーロッパを巡っているときに気付いた、どうでもいい事。誰もカナダを知らない。アメリカに似ているカナダなら誰もが知っているが、アメリカと全く似ていないカナダは見向きもされない。顔を合わせたことのある国、会話したことのある国、連邦の主たる国。世界の主軸たる国々は、カナダを認識していなかった。
カナダの個はアメリカに付属することで成り立っていたなんて。
そんな事、知っていたはずなのに。
「泣くなよ、カナダ」
「っぐ、キューバ、さん」
空港に居るはずのない彼。幻覚ではないのは、涙を拭われた時点で分かっていた。
どうしてここに居るか、なんて尋ねない。プロイセンはカナダを判別してくれたが、今は此処に居る彼だけがカナダの命綱なのだ。
自己の確立は、他人の認識があってこそ成り立つもの――それは国同士でも変わらない。
「僕が、誰だか、分かるんですか」
「カナダだろうが。パーマ掛けたって髪の色は変わってねえ、眼鏡外したって目の色は変わらねえ、服変えたってお前は変わんねえ。俺の目の前でぼろぼろ泣いてんのは、いつもぽややんとしたカナダ以外にあり得ねえ」
ドレッドの彼はそう言うと、カナダの頭を胸に抱きこんだ。眼鏡がないから顔面に痛みは生じない。他人の温もりと、彼の匂いと、言いようのない安心感がカナダを包んだ。しあわせ、小さく呟いた言葉はキューバには届かない。
「……さっさと帰るぞ」
腕の中で頷けば、彼は何も聞かずに家に迎え入れてくれた。連絡を入れていないから怒ると思ったのに、拳のひとつも上がらない。むしろほっとした素振りでコーヒーを淹れてくれた。
カナダはキューバのこういうところに好感を持っていた。怒るときは怒り、謝るときは謝る。白黒はっきりした性格は、互いに好意を抱いた瞬間に照れ臭いものとなったが。でも自分の意見が中々言えないカナダからすれば、キューバの性格にいつも憧れていた。正面きってアメリカを嫌うのも、すごいとしか言いようがない。
「すまねえ、メイプルは切らしてんだ。砂糖で我慢してくれ」
「砂糖で十分ですよ、ありがとうございます」
赤くなった目元が恥ずかしいけれど、彼と一緒に居られるなら構わない。
カナダはいつもより苦いコーヒーを、何処か甘いように感じていた。
余談:数時間前のメール
【差出人:プロイセン 件名:すっげーぞ!
本文:カナダがそっち行くってよ。色々用意したほうが良いぜ!あいつすっげーから】
【送信主:キューバ 件名:はあ?
本文:そんな連絡来てねえぞ。カナダはそっち行ったのか?】
【差出人:プロイセン 件名:とにかくこれを見ろ
本文:(添付画像)こんな格好で国中うろついてやがった。捕獲しねーとやべーぞ】
【送信主:キューバ 件名:似合うな
本文:服のレースと配色でここまで変わるのか。女にしか見えねえ…こっちでちゃんと捕獲する。連絡ありがとよ】
【差出人:プロイセン 件名:俺を敬え!
本文:礼はメイプルで返してくれよ!あとアロハくれ!】
カナダの国境が曖昧なら性別も曖昧でいいじゃん(?)と考えた結果
カナダさんは男物も女物も似合う子。プーとキューバはメルアド交換するくらいに仲が良い
キューバ×カナダ+プーという構図は良い。ブロ友と恋人と俺様栄誉賞は仲良しということでひとつ
09/05/08
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