Una scommessa



「よし、俺の勝ち!」
 両手を天に突き上げて、デントは喜色満面でトランプを床に放り投げた。
 手札は五枚、5が二枚に8が二枚のツーペア。
 デントの正面で渋面を作っていたブレアはてんでばらばら、役なしのブタだった。
「アンタほんとに弱いですねー金賭けてたら尻の毛までむしられてるよ」
「こんなところで運を使う必要はない」
 負け惜しみにしか聞こえないブレアの台詞に、デントは声に出さずに笑った。レッドスプライト所属の傭兵は例に漏れず負けず嫌いだ。とはいえ、これでブレアの連敗記録がまた更新された。両手で数えきれないほどの敗戦である。
「でもさ、こんなに負け越すのもある種の運じゃないのかな」
「そんな事はない」
「でもさあ、全っ然役が揃わないじゃん。これだけやって全部ブタってのは逆に難しいと思うけど」
 感心するように指摘すれば、ブレアが苦虫を噛み潰したような顔を作る。口ではああ言っていたが、やはり悔しいのだろう。
 気を取り直すように大きく一息ついて、ブレアはデントと自分の手札を山札に重ねて勢いよくシャッフルし始めた。ディーラー不在の二人遊びなので負けた方がカードを配るルールなのだ。しかし暇つぶしの手慰みとはいえ、ブレアは驚くほど弱い。
「何か賭ければ変わるかなあ」
「マッカは賭けんぞ」
「分かってるよ、全部むしっちまったらアンタが大変だもんな。でも何がいいかな」
 賭けるものか、とデントは思考を巡らせた。
 ブレアは機動班である以上に傭兵としての心構えがしっかりしている。賭けにマッカやアイテムを消費して前線でピンチに陥る、なんて無様は晒せないのだ。だが如何せん弱い。弱すぎる。カードゲーム限定で運がないのか戦場限定で天運を引き寄せているのか。
 ……しかし何より驚くべきは、勝つと分かっているゲームを延々続けているデントなのだが。
「そうだ、負けたら恥ずかしい台詞を本気で言おうぜ」
「恥ずかしい台詞?」
「俺はリリムが好きだ、とか、アーサー愛してる、とかね。あ、感情込めてな」
「……俺は負けんぞ」
「どうだかね?」
 そうして始めたゲームは、やはりあっさりと決着がついた。デントのフルハウス、ブレアのワンペア。たかがワンペアがいっそ感動的だったが、負けは負けである。大きく息をついてブレアが腕を組んだ。
 さてこの年嵩の傭兵は何を言ってくれるのだろう。小さな羞恥が煽られる罰ゲームではあるが、聞いているのはデントだけなのだ。きっと面白いことを言ってくれるはず。
 ワクワクする。
 なにせブレアは年上で根っからの傭兵であることを差し引いても、性格がクールすぎるのだ。冗談などほとんど言わない。大概が戦闘に関する話ばかりで感情のぶれが起きない。だから期待していた。
 ブレアの指が考えるように二の腕を叩き、止まった。閉じられた目蓋がゆっくりと開かれる。
「デント、好きだ」
 は、と無意識に息を吐き出した。耳がおかしくなったのかと思った。
 鋭い眼差しが両目を貫く。ただひたすらに真剣なのか殺意を込めているのか、判断がつかないくらいに強い視線だ。
「……これでいいのか、デント」
 絶句しているデントを見つめながら、やがて唇を微笑の形にしたブレアが至極満足そうに問う。その態度に言葉を取り戻したデントがからかう事も忘れ、思わず詰め寄った。
「な、なんだよ、アンタ、俺が好きなのかよ」
「嫌いな相手と延々カード遊びなどするか」
「そうだよなあ……そうだなあ」
 ブレアの言うことももっともだ。利益ゼロで嫌いな奴の遊び付き合うなんて柄じゃない。
 そうだ、嫌いじゃなくて好きなのか。そうか。
「で、まだやるのか?」
 表情を戻したブレアがトランプの山を指差した。デントは胸に落ちてきた感情をあっさり受け入れ、ブレアににっこり笑いかけた。
「俺もアンタが好きだよ」
 喉を鳴らしながら山札をブレアに手渡す。好きな奴とする遊びに飽きなど来ないのだから。
 まだまだ遊びは終わらない。



デント→ブレア。ブレアさんは戦場では悪運に恵まれますが他はからきし。デントさんはイタリア人ということで。
09/12/07