雷堂、いつもの頼むよ





「また会ったな、別次元の我」
「また会いに来ました、雷堂」

 ここは時間という概念がない空間、アカラナ回廊。
 その入り口付近(この名称は正確ではないが、便宜上このように呼称しておく。我々の存在すべき時間はここから始まっているということだ)で微かに唇を引き上げるのは己と同じ顔を持つ男、葛葉ライドウ。別次元の、少々未来の我の姿。
 こいつは我が苦戦した魔王すらも倒してしまった。
 業斗も居ない一人旅、時の迷い子になろうともやらねばならぬ帝都守護の任に奮ったのだが、我は未だ弱い。だから此処で腕を磨いている。早く己の時代に戻らねばならぬのだが、この男の剣技を目の当たりにした後ではそうもいかぬ。此処には強敵ばかりが蔓延っているゆえ、弱い己を鍛え直すのにはもってこいの場だ。
 そう考えて此処に留まっているのだが、この男は妙な理由でわざわざ来訪していた。
「久しぶり、陰陽葛葉。僕の始まりで、僕の愛した刀」
 気障ったらしく我の刀に手を添えて、西洋紳士がするような礼をする。
 この男は刀を愛している。
 時に頬擦りするくらい、好きらしい。
 愛の方向はもちろん嗜好ではなく愛好の方だが、なにせ度が過ぎている。以前我が刀を手入れしたときに「僕が発見した刀が長持ちする手入れ法」を滔々と語って実践していたくらいだから、相当な入れ込み様だと思う。刀を大事にしている我でもあそこまではしない。
「……何だ、お前のは折れたのか」
 あり得ないだろうが、とりあえず尋ねてみる。あらぬ嫌疑を掛けられたとでも思ったのだろうか、陰陽葛葉に対して紳士だった男は途端に噛み付いてきた。
「こんなに美しくて麗しくてつまりは美麗なもの、誰が折るものですか! Dr.ヴィクトルがサクリファイスをやめちゃったんです。どうも魔晶とやらに魅入られたらしくて、おかげで合体事故が激増しています。名称もルナやらソルやらえらいことになってて、刀の銘まで文明開化したような有様ですよ! まったく、傍迷惑な話だ」
「ヴィクトルの探究心とナルミの放蕩癖はそちらと相違ないな。そういえば、こちらではライホーくんとやらが出現したぞ」
「ああ、こっちだと生成し放題ですよ、彼。相変わらず小生意気ですけど」
 やはりこちらは一歩出遅れているらしい。
 未来だから別次元だからと切り捨てるのは簡単だが、何か悔しかった。なまじ同じ顔だからいけないのだ。傷の有無はあっても我らは双子のようで、横に並べればどうしても比べたくなる。我が劣っているのなら、それは地団駄を踏みたくなるくらいに悔しい事象だ。
 我が歯噛みしている横で、件の葛葉ライドウは耐えかねたように陰陽葛葉に頬擦りをしていた。我の愛刀に何をするか。
「陰陽葛葉、ああ陰陽葛葉……僕のラマンは君だけだ……」
「ラマンとは愛人の別称だろう? 君だけ、というのは何か違うのではないか」
「もちろん本命は別に居ますから。浮気するなら君とだけ、という意味ですよ」
 それもどうかと思うが、本命とやらも哀れだ。刀に浮気するような奴に惚れられるなんて、己の存在意義を疑ってしまう。
「あ、本命はもちろん貴方です。お忘れなく」
「…………は?」
「僕の本命は葛葉雷堂、貴方です。けれど貴方と同じくらい陰陽葛葉を愛しています。もう濡れ手に粟もいいところですよ、どちらかとお付き合い出来るのなら両方ついてくるんですから」
 絶対にどちらかは手に入れると自信ありげに語り掛けてくる無傷の顔。言っている内容は馬鹿らしいことこの上ないが、語る顔は大真面目だった。
 相槌するのも億劫なくらいに阿呆らしい。が、この反則級に強い男だからこれくらいの性格的損失があっても構わないだろう。
 完全無欠はつまらないからな。



 アカラナ回廊は広い。過去から未来から全て地続きになっていて、果てなど存在しない。
 もう何度目になるのか忘れたが、気を取り直して我はいつもの言葉を紡いだ。
「ここの説明は必要か?」
 別次元の我は、いつもよりも濃い笑みを浮かべて首を縦に振った。
 







アバドン王クリアした記念に初ライ雷(ぽいもの)雷堂に会う為にアカラナ回廊に通いまくるライドウ。
雷堂世界の業斗はどうなったんだろうか。


08/11/23