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「貴様を成敗し、帝都の安寧を取り戻す」 赤黒い異空間に響き渡る、顔に傷を持つ少年の凛とした声。一切の穢れを払ったような、迷いの伺えない言葉。無傷の左目が殺気を含んだ視線を眼前の相手に叩きつけている。 その目で射られて尚居座る諸悪の根源は、ふぉふぉふぉ、と笑った。隙間から無理矢理吐き出すような湿っぽい音だ。 「第十四代葛葉雷堂がワシを屠るか……ふぉふぉふぉ! 戯言もほどほどにせい」 「相手の技量も測れぬか、愚昧な魔王よ」 右手で鞘に収めていた陰陽葛葉を抜き、左手で仲魔を収めた管を握る。 この場に業斗は居ない。だから全ては雷堂の判断で始まり、終わる。胸に去来した懐古の念を、今は開封しないでおく。何もかもが終わってから、あの黒猫のことを考えよう。 己の全ては、この魔王を倒すことに注ぐ。 からから、車輪が回る。引くものも居ない荷車が、魔王の意のまま左右に動く。 「動くな。そのままじっとしていれば、痛み無く彼岸に送ってやろう」 「腹が捩れるわ、若造。ワシを相手にするなぞ千年早い。このギンギンで昇天するはお前じゃ」 「…………」 この言を聞いた瞬間、目の前の事象に神経を注いでいた雷堂の顔が壮絶な造りに変化した。眉は怒り、歯を食いしばり、目を見開いて。憤怒の形相と形容するが相応しい雷堂は、このとき或る人物を思い出していた。 『僕と同じ顔なのに、こんなに激しい情欲が湧くとは思いませんでした』 『泣く顔も可愛いですよ、僕の影法師』 『雷堂』 歯軋りしながら雷堂は陰陽葛葉を振り上げた。 普段の冷静沈着な彼からは想像もつかない、強く激しい怒声が声帯で掻き鳴らされる。 「貴様は、自重という言葉を知らんのか! あれといい貴様といい、何故言葉に気を配らない! いいだろう、まずは貴様の喉笛を貫く。その淫猥な台詞を今後使わせる訳にはいかん!」 「ほうほう、ワシのギンギンが立派で逞しくて羨ましいか。気にするでないわ、大きさの問題はどうにもならんが、技巧を凝らせば靡く女子も居るだろうに」 「ええい、貴様が吐く音自体が公害だ、邪悪だ、帝都の平和を乱すものだ!」 それだけ吐き出すと、雷堂は素早く魔王の懐に飛び込んでいった。雷堂よりも遥かに大きい魔王。深緑の体に、退魔の刃を突き刺していく。 魔王は笑う。ふぉふぉふぉ、耳障りな音だ。 「リリス」 管から召喚した仲魔に援護を任せ、雷堂は銃を取り出した。弾丸は氷結弾にしておこう。あの卑猥な魔を黙らせるには、動きを止めるのが一番簡単だ。素早く弾丸を込め、数発打ち込む。だが深緑の巨体は止まらない。巨体は真っ直ぐに、雷堂に向かって突進してくる。 「ワシは絶倫じゃから氷結如きでは止まらんぞ」 「ええい黙れ! 貴様は何としても我が仕留める、何をしてでも黙させてやる!」 リリスが魔王の体当たりを防いでいる間、雷堂は身を震わせていた。嫌悪も頂点を越えれば立派な殺意に摩り替わる。 けれど、ちょっと涙が出そうだった。 『僕は絶倫らしいです。きっと貴方が相手だからでしょうが、若いって良いですよね』 別次元の己があの醜悪魔王と同じことを言っていたのに、少し――いや、かなり落ち込んだ。 今はそんな場合ではないと分かっているのに、落ち込まずにはいられなかった。 |
08/11/26