バッドステータス
CASE:04 DOWN
今に始まったことではないが、ヒトナリはあまり口を開かない。艦内では軽い雑談をするが、やはり物静かな印象が色濃い。
それにしてもこいつはどうして陰鬱な雰囲気を醸しているのだろう。
珍しく俺より先に部屋に戻っていると思ったら、陸揚げされたマグロみたいな格好でベッドに寝転んでいた。デモニカも転がしたまま、銃は安全装置を掛けてはいるが床にうち捨ててある。よほど疲れていたのかうつ伏せの姿勢で全く微動だにしないから俺は熟睡しているのかと思い、そっとしておくことにした。
「ブー…」
「そっとしておけ、バガブー」
ベッドの縁でヒトナリを覗き込んでいたバガブーは、至極残念そうに尻尾を床に垂らした。
俺が報告書を作成しているとき、ヒトナリはバガブーの相手をしてくれている。それも手伝ってかバガブーはヒトナリを“フレン”と呼ぶようになったのだが、そのフレンが相手をしてくれない今の状況をバガブーはどう見ているのだろう。
「バガ、ブゥ?」
デモニカの頭を置いて書類の準備をしながらバガブーの様子を伺う。首を傾げつつもヒトナリの横に座り、もごもごと何かを喋ろうとしている。バガブーの唸り声で目が覚めたのか、ヒトナリの顔が少しだけこちらに向けられていた。
「ブゥ、フレン、ァウ」
懸命に何かを言葉にしたいようだが、適する言葉が見つからないようだ。
いつもならその様子を微笑ましく眺めているのだが、今日は何か違っている。ヒトナリに表情がないのだ。無表情というか、表情筋を極限まで弛緩させているというか。
鉄面皮と呼ぶにはどこか脆く、寝惚けていると評するには視線に力が篭っていた。
「ヒメネス、フレン、ノー……ブブゥ」
スーツの裾を引っ張ってしきりに何か伝えようとしている。ノー。無い、違う。ならフレンが違う、と解釈するのが妥当だろう。バガブーはこんな風に伏せるヒトナリを見るのは初めてだったか。いつもはトイレに行っているから知らないのも当然かもしれない。バガブーの頭を軽く撫でてやって、俺はヒトナリの状態を伝えるか否か思案した。
「ヒトナリはな、ちょっと考え事をしてるんだ」
「ブ?」
「お前だって悩むだろう? こいつも悩んでるんだよ。ぐっちゃぐちゃでどうしようもない深みに嵌ってる」
まあ、それも人為的……いや、この場では悪魔為的とでも呼称したらいいのか。とにかく、他からもたらされた作用であるのは明白だった。別に悩むのは構わないが、度が過ぎると部屋まで湿っぽくなって嫌だ。
「だけど、大概はこれで治る。ヒトナリも元通りだよ」
「バガ!」
装備の中から取り出したものをヒトナリの口に突っ込んで様子を見る。
沈んでいた表情は少しずつ浮かび上がってきて、青ざめていた頬も色を取り戻していく。
「……もし、これで治らなかったら」
本当にヒトナリが悩み、沈んでいたとしたら。
「ブー?」
「ああ、何でもない。ほら、治ってきたみたいだぜ。話し掛けてみろよ」
「ブ! フレン、フレン!」
ヒトナリは何かに思い悩んだとしても、俺には何一つ相談したりしないのだろう。
俺が勝手に何かしない限り、こいつは考え続けるのだ。それが仕事であるとでもいうように。答えが出なくても、ずっと。
腹から湧き出る苛立ちを、寝たふりを決め込むヒトナリを揺さぶることで俺はようやっと抑えつけた。
消沈…勢力減退による虚脱・鬱状態?
ヒトナリは消沈すると天の岩戸(トイレ・ベッド)に引き篭る。
09/11/30
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