バッドステータス
CASE:02 PALYZE
探索を切り上げて艦に戻ってきたら、どこかから聞き慣れた声が微かに聞こえてきた。
「ああ、すまない」
さっきから何度も何度も誰かに謝っている。日本人はすぐに頭を下げるというが、流石に異常な回数だ。少しばかり気になって声のする方へと足を向けた。俺が最初の曲がり角を過ぎようとしたところで、何かがぶつかる鈍い音がした。
「……何してんだ、お前」
「ぶつかった」
さっきの音の元凶はヒトナリだったらしい。まともに壁に激突したのだろう、額から血が滴っていた。
探索で疲労困憊して注意力散漫になったのだろう、と俺は勝手に推測した。なにせヒトナリは調査隊の要と称されるほどクルーに慕われているのだ。クルーからは頼られ、アーサーからは任務を課される。まったくエリート殿は暇なしだ。
ヒトナリは傷口を手で押さえているが、指の間から血が溢れ出ていた。
額は派手に出血しやすい部位だから傷に関して重く受け取らなくても大丈夫だろう。だが艦内で血の匂いがするのは良くない。
止血材など持っていないから、代わりに傷薬を額に塗りたくってやる。効果があるか外見からでは分からないが、その傷薬は軟膏だったから物理的に傷口を塞ぐことだけは出来た……かなり不恰好であったが。
「ラボより先に医療室に行け。ふらふら歩きやがって」
「すまない」
「誰彼構わず謝ってんじゃねーよ」
だがヒトナリは合理的な思考を優先する。ラボで諸々の作成注文をしてから隣の医療室に向かい、治療が終わってからラボで完成品を受け取るなんてプランを当たり前のように立てているだろう。これは絶対だ。間違いなく的中するだろう。
ヒトナリは極々普通に、俺の言うことを聞かない。
「よし、ドクターのところまで俺がついていってやる」
「……そこまで悪い状態ではない」
「安心しろ、これは俺の独断だ。お前が断っても俺は勝手についていくからな」
そう言って背中を叩けば、ああ、と肯定だか否定だか曖昧な返事が返ってきた。ヒトナリを見れば、何やらちらちらとこちらを伺っている。本当にラボに寄る気だったのか?だとしたら責任持って送ってやらないといけない。
そんな事を考えて少し目を離した隙に、またガンッという音がした。ヒトナリが今度は腕を押さえている。
「大丈夫だ」
苦笑しながらの弁明はしっかりした口調だった。だからあの衝突は疲労が原因ではないのかもしれない。でも足を挫いた訳でもなさそうだし、俺にはさっぱりだ。
こういうときはドクター直々の診療に限る。
「貴方、随分がんばったわね」
「頑張ったぁ?どういうことだドクター」
「あら、言ってもいいのかしら。医者には守秘義務があるのだけど」
「……構いません。ヒメネスには知る権利があります」
「なら良いわ。タダノ隊員は麻痺状態だったのよ。人や壁にぶつかってたのは触覚が上手く働かなかったからね」
……その後、俺はひとしきり嫌味をぶちまけてからラボで異常回復系のアイテムを買い漁った。
もちろんヒトナリの為ではない。俺はあいつのような無様、絶対に晒せないからだ。
麻痺…皮膚感覚が失せて回避行動が遅れる?
回復薬と傷薬は違うものだと思います(ラボで買えないし)
09/11/26
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