バッドステータス
CASE:01 POISON
担当エリアから少し外れた位置で、見慣れたデモニカを見かけた。
白腕のデモニカスーツは右に左にふらついている。足取りは重く、不可視の背嚢でも担いでるみたいだった。
「あいつは……ヒトナリ、か?」
調査隊でも両腕が白色なのはあいつだけだ、まず間違いないだろう。しかしまた、どうしてこんなところに。負傷したのなら艦に戻る道はこっちじゃない。
「極度の方向音痴……ってのは、ないな」
自分で言って、すぐにそれはないと頭を振った。人類の技術の粋を結集させたデモニカは致命的な方向音痴ですらも是正してしまう。そもそも出世ルートを突き進んでいたエリートが方向音痴なはずないだろう。
正面にいる俺が目に入らない様子で、ヒトナリは相変わらずスロースピードで歩を進めている。銃や剣こそ手放していないが、あの状態で攻撃したところで敵だけじゃなく自分にもダメージが返ってくるだろう。脱力状態の銃撃は脱臼に繋がる、なんて事は素人だって知っている。
こういうおせっかいは好きじゃないんだが、アーサーから小言を食らうのも面倒だ。しょうがない。俺はヒトナリに声を掛けた。
「おい、どうしたヒトナリ」
返事はない。顎が若干上がったが、発声するには至らないのかすぐに俯く。そのまま俺の横をすり抜けようとするのが癇に障って、肩を掴んで引き止めてやった。
「随分ふらついてるみたいだが?」
「…………ヒールスポット」
ようやく発せられた声は、息を吐くような呟きだった。デモニカを操作してヒトナリをアナライズしてみると、予想通り体力がレッドゾーンに到達している。そして注意書きのように明滅する“POISON”の文字。
「ヒールスポットで治療して、また探索しようってハラか」
俺を振りほどこうとする腕に力がない。そりゃレッドゾーンなのだから息も絶え絶え、下手すりゃ死ぬってヤバさだ。何が楽しくて回復しないのか知らないが、もしアイテムを節約しているなんて下らない理由なら俺はこいつをマゾ認定する。あるのに使わないのは馬鹿のする事だ。
俺の手持ちに毒消しはある。親切めかしてそれを譲ってやるのは簡単だったが、その前に無口な男の下手な言い訳を聞いてみたくなった。
「どうしてアイテムを使わないんだ」
声だけはにこやかに、だが肩に掛けた手には力を込めて詰問した。デモニカが俺の手を見て、俯き加減に一言だけ返した。
「手持ちが切れた」
「買い渋りかぁ? ここでケチってたら死ぬぜ?」
「仲魔の分と俺の分、結局は幾つあっても足りない」
ああ、そういうことか。仲魔と自分の分、イコール四個の消費。見たところヒトナリの連れている悪魔に状態異常に陥っている奴は見当たらない。まめに回復してきたのだろう。その結果、アイテム切れのジリ貧にはまり込んだ訳か。ヒトナリらしいといえばらしい、全力を尽くした末の逃亡劇だ。
……軽々しく毒消しを渡さなくて本当に良かった。そんなことしたら、こいつはまた無茶な探索に精を出していただろう。
俺はヒトナリを引っ張って歩いた。向かう先はヒールスポットではなくターミナルだ。
こいつは艦に戻して治療ポッドに寝かせた方がいい。一隊員として、隊長代理を死なせる訳にはいかないのだから。
毒状態=それだけなら死なないだけの危険水域
09/11/25
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